メディアアートや先端デザインで少し先の未来を体験できる展覧会が横浜・関内にあるZAIM別館をまるまる使って8月6日まで開催中である。

日本大通りに聳え立つ築80年のビルを「ワンダー」な体験ができる「アパートメント」のモデルルームにした「エレクトリカルファンタジスタ2008」(http://fantasista.creativecluster.jp/)というタイトルのこの展覧会は、「個人やグループで家電や携帯電話までつくってしまう新しい世代のアーティストがこれからのライフスタイルを提案しつつある」(同展キュレーターでクリエイティブクラスター理事長:岡田智博)という時代認識のもと「そんなワンダーな体験を実現できる個人である『ファンタジスタ』たちの最新のワーク」が展開されているものだ。
本特集ではこの「ワンダーアパートメント」を探検してみよう。
先端テクノロジーを競いあうことが、メディアアートであったり先端デザインであったりするのではと思われることが多い今であるが、実はテクノロジーが私たちにとって当たり前になることは、テクノロジーを使って様々な人々がワンダーな「もの」や「こと」を生み出している状況でもある。

奇妙なのに愛らしい架空のいきもの「チムニー」のフィギュアがターンテーブルで踊りだす真壁友とchimneyによる「Sometimes I'm Happy」は、アニメーションの原理となる視覚効果をオブジェのダンスとして表現したもの。
まさにリアルに愛らしい踊りを見せられているような錯覚に陥る作品。
電気を使わないメディアアートもある。
新進のインタラクションデザイナー岡田憲一が創りだす映像の世界はまさにハイテクであるが電気を使わない。
自然光をバックに光ファイバーがドットを伝達して、アニメーションを映し出す、電気を使わないディスプレイ「ピクセルファクトリー」。

ゼンマイ仕掛けをまわすとファインダーのフレームが落ち、まるで見ている景色が映画の光景のようになる「エモトスコープ」。
30代のメディアアーティストの中において世界で最も注目されている作家のひとりである、クワクボリョウタが2年ぶりに送り出したのが「ウツリナ」。

「ウツリナ」は、動画の中にある美しい風景の煌きをLEDの照明として切り取った作品。移り行く光の美しさが、空間を照らす気配の照明の可能性を沸き立たせるイノベーティブな作品だ。
テクノロジーとしてのメディアアートではない、繊細な映像美と錯覚によって感動を巻き起こす作品も新しい世代の「ファンタジスタ」の手から生まれている。
その繊細なCGによって年間200本ものコマーシャル映像を手がける、新進クリエイティブ集団のWOWがその創造性をノンコマーシャルで投じた「Polar Candle」は、円錐形の鏡にのみ浮かび上がる動画のだまし絵。映像の世紀の初めのワンダーが動画になって蘇った。
映像の世紀の初めのワンダーが現代に蘇るもうひとつの作品がSHIMURABROS.の「THE IMAGE PLAYS THE REALITY」だ。

ルミエール兄弟が上映した初の映画。
汽車がカメラに向かって走り出す中で、当時のフランス人たちは本当に汽車が遣って来るとふと思い、スクリーンの前から逃げ出したという。
SHIMURABROS.は通電ガラスによって本当に迫り出す映像装置を発明、その装置の中にレントゲン写真で切り取った汽車の写真を投影、本当に記者の中に頭を高速で突っ込んでしまったような世界を現出させてしまった。
「ファンタジスタ」たちはロボットの常識も打ち破ってしまう。
エンタテイメントロボットは人型や動物型だけでない、テクノロジスト集団「チーム★ラボ」(http://www.team-lab.net/)が作りだすロボット「いつも見てくれているよ♪」は、なんと無数の目玉。

そのロボットのある部屋に入ると無数の目玉があなたを凝視するのだ。凝視するだけではない、この「ロボット」に近づくと、ディスプレイ上に幽霊や人魂が現れ、目玉がまるで仲間のようにこれらの霊を追う。そう、この目玉は幽霊型ロボットなのだ。
縄によって縛られた石。
その石はときに意思を持ったように動き出す。

「君が代」に歌われた「さざれ石」の産地、岐阜の大垣で制作をしているメディアアーティスト田部井勝がつくった「行雲流水」は、自然を崇めていた日本の感性そのものに石をロボットにしてしまったのだ。
「エレクトリカルファンタジスタ」では、携帯電話で魚が釣れる。

ユニークなインタラクティブ広告で世界的に知られているバスキュールが送り出した「ぎょろる」は、サイバースペースに生まれた地下湖。
携帯電話のQRコードを取得して得た専用の釣竿で魚を釣るのだ。
魚があたると振動がリアルなこの作品、巨大ビジョン広告などがインタラクティブになる少し先の未来を現実にしたもの。
家庭のコンピュータでも釣りができるようになっている。
http://gyorol.bascule.co.jp
今までにない都市の情景。
テクノロジーを使って魅力的な空間をつくりだすデザイン集団「dilight」による◎◎◎◎◎(cycle)は、古い自転車の想い出をつむぎだすエコを感じさせるオブジェ。
ペダルを廻すとそこから発電されたLEDのサークルが幻想的な光の模様を紡ぎだす。

テクノロジーが身近になったことは、大メーカーでは実現しなかったような、個性あるプロダクトの姿を「ファンタジスタ」たちは送り出そうとしている。
風にそよぐ光の稲穂が創りだす草原の佇まい。
Xbox360のデザイナーとしても知られるムラタチアキが、大阪のものづくり企業との連携で作り出しているアートな家電シリーズ「メタフィス」(http://www.metaphys.jp/)の新作である「susuki」である。

「suzuki」は便利に照らすための照明ではない。かすかな風でそよぐ穂とほのかに燈るLEDの実がつくるはかない光景を部屋で愛でる照明なのだ。
「susuki」は8月1日より発売が開始される。
全く新たなところから魅力的な仕事をみせる「ファンタジスタ」も生まれている。
「機械と人間とのいい関係をつくりだしたい」と語る松山淳一は、奈良にアトリエを構え独学でインタラクティブなデザインを磨き続けている。
その松山が送り出す、関係をつくりだす「スイッチ」によって彩られた部屋がある。鉛筆で回路を結ぶと明りが燈る照明「write-bulb」。

使われなくなった想いでの鍵を収めるその鍵でしか点らないスタンド「I'm home」、花を活けることにことによって音空間が変わるボリューム「hana no ne」、握ることによって点灯する照明「machi akari」。

どれもが、大学や研究所、大企業では生まれなかった、松山の持つやさしい気持ちが込められた作品たちだ。
外部の音によって表情がめまぐるしく変わるUSBのおもちゃ「TENGU」(http://www.tengutengutengu.com/)は、ロンドンのインタラクティブデザイナーであるクリスピンジョーンズが、前回の「エレクトリカルファンタジスタ」で出会った、ユニークなPC周辺機器を送り出すソリッドアライアンスとの共同開発でつくりだした、周辺機器化したメディアアートによるプロダクト。
横浜に本社を持つ独自の音響空間でプロを魅了するメーカー田口製作所が開発した振動によって高音質な音を机などあらゆる接地面で鳴らすことができるユニットを用いて、ミニマムなお盆型のスピーカーユニット「vibon」を開発したプロダクトデザイナー倉本仁。

展覧会の主催であるクリエイティブクラスターが提唱する、テクノロジーを魅力的なものへと変えるファンタジスタとものづくり企業とのコラボレーションによってプロダクトをつくりだすプロジェクトが同じくかたちになった作品たちだ。
昼間は大手メーカーなのでまさにヒット商品を開発したりしているデザイナーたちの集団、参(mile)が提案したのが「Prism」。

使われなくなったアナログテレビに携帯プレーヤーやPCからの音楽の波形を映しながらスピーカーにするアンビエントなプロダクトの発想である。

新進の建築家・長岡勉(point)が構成した展示空間は、まさにこれらの作品とともに寛ぎ、楽しめるこれからのライフスタイルを実感できる場になっている。静かにアートと対面しなければならない堅苦しい場所ではない、作品を囲みながら突っ込みを入れたり、遊んだり、ゆっくりできる、本来のクリエイティブが置かれたい幸せな空間の中で楽しめるようになっている。

■ エレクトリカルファンタジスタ2008
会期:2008年7月18日〜8月6日
時間:13:00〜19:00
会期中無休会場:ZAIM別館 横浜創造界隈
住所:神奈川県横浜市中区日本大通34
入場料:700円(小学生以下無料・大学生以下500円)
問い合わせ: 045-222-7030 (ZAIM=会場)/ 050-2404-3359 (クリエイティブクラスター=主催)
mail = yokohama@creativecluster.jp (Creative Cluster)
公式サイト = http://fantasista.creativecluster.jp
主催:クリエイティブクラスター
共催:ZAIM (財団法人横浜芸術文化振興財団)
助成:芸術文化振興基金
後援:文化庁・横浜市・CG-ARTS協会
協賛:関西テレビ放送株式会社・株式会社葵デジタルクリエーション
協力:株式会社ソリッドアライアンス・有限会社CMMD・株式会社田口製作所・株式会社TRY-A
企画・プロデュース:岡田智博